谷間の百合

谷間の百合

『最近押入れの奥深くからキテレツ大百科の録画テープが出てまいりまして、特に何もすることもないのであるし少しばかり見てみるかと埃の被ったビデオを回していると、哀しいことに気付いてしまった。ヒロインである野々花みよ子が、八百屋の息子である熊田薫のことを【ブタゴリラ】と呼んでいたのである。この事実は私の胸を切なさでいっぱいにした。ドラえもん劇中で皆がジャイアンジャイアン剛田武を小馬鹿にしているのに対して、源静香だけは【武さん】と麗しい響きで呼称していた。しかし同じヒロインであるにしても野々花みよ子は決して【薫さん】と呼んだりはしない。彼女は品性を捨て常に自らを上位に置くことでアイデンティティを保ち、あたかも熊田薫が醜い生物である豚とゴリラのキメラであるかのように扱っているのである。私は藤子藤男の心の奥に潜む闇を垣間見た気がしたと同時に、ふとこれは私の人生に似ている、と思ったのです。』