コルクペニス

先に考えたもん勝ち


レイジは憤慨していた。なんとなくテレビを見ている時に流れたCM曲の歌詞が、以前自身の描いた漫画に出てくるセリフと酷似していたのだ。盗作に違いない、レイジはそう考えた。怒りのままにレイジは電話を手に取った。



「あの歌はどう言うことかね!え?あの歌の歌詞は!私が以前漫画に書いたセリフと非常に似ている気がするのだが…!」

「…はぁ。申し訳ございません。」

「これは、曲の販売差し止めモンだよ。早速マスコミに公表させてもらいますよ。」

「それは困ります。ですが…」

「なんだね?」

「なぜその曲の作者の事務所にではなく、我がAJ社へお電話を?」

「…私は御社のCMを見て気づいたのだ。それに、自分の会社で販売している商品のCMの曲の素性をロクに調べもせず使う御社にも責任はあるのではないかね?」

「それは…、ないこともないかも知れませんね。」



明らかに筋の通らない主張である。そのときの電話の応対者は、これは何か裏があるな、ふとそう思った。



「お宅もせっかく苦労して撮ったCMの曲が差し止めと言うことになると困るだろうが、マスコミに公表することにするよ。…ただ。」

「ただ?」

「私も鬼ではない。そちらの誠意次第では公表を差し控えてあげても良かろう。」

「……誠意…ですか?」

「そのCMに出演している、確か…長澤くん?とか言ったかな。彼女は有望。実に有望だね。その彼女が直々に私へ謝罪、となればマスコミへの公表は考えることにしよう。」

「…そう言うことですか。…先生の事務所へ伺えばよろしいですか?」

「いや…事務所じゃ困る。そうだな、自宅の方がなにかとよろしい。ついでにセーラー服も着て来させたまえ。いいか、絶対一人で来させるように。絶対だぞ…」

「…彼女の事務所に手配するよう連絡しておきます…」



老いてますます盛んである。この老獪は実は激怒などしていなく、なんとかしてあのセーラー服の組長を蹂躙したいと企んでいたのだ。それは老いての歪んだ恋心であった。そこへあのCM曲の歌詞。これは正に絶好の好機と思い、かなり強引ではあったがダメ元で今回のこの策を実行したのである。「まさかこう上手く行くとは…。」笑いが止まらないレイジであった。





そして約束の日の晩。



…コンコン。「…失礼します。事務所に言われて来ました。」

「おぉ…。来たか。本当に一人かね?」

「はい。そう言われてましたので…」



薄暗い室内でレイジはしわだらけの顔をさらにくしゃくしゃに歪めて笑った。



「…入ってきたまえ。言った通りセーラー服を着てきたかい?」

「はい。」

「…いい子だ。さぁ早く入りたまえ。」

「失礼します。」ガチャ。

「うむ…、さぁ、早速こちらに来たまえ。…本当にセーラー服を着てきたようだね。可愛いよ。」



我慢出来ないレイジは、来た客にお茶も出さずいきなり体を撫で回し始めた。



「はぁ…あぁ…。夢にまで見た…。 …怖がらなくていいんだよ。何も怖いことはないから大人しくしててね。  …うん、いい子だ。 …しかし思ったよりずいぶん背が高いね。しかもがっしりした体つきをしている。君がそんな筋肉質だとは予想外だよ。ヒゲも濃い。意外だ、実に意外だ。…つかMacky本人やん!」



そう、レイジ宅を訪ねてきたのは長澤ではなく曲を作った渦中のミュージシャン、Mackyであった。薄暗かったので気づかなかったのか、あまりの予想外の出来事に腰を抜かすレイジ。



「AJ社から電話がありました。なんでもこの騒動を収めるために長澤さんを謝罪するよう家にお呼びしたらしいと。いや、それはさすがに筋が通らないのではありませんか、と言うか長澤さんは全然関係ないじゃありませんか。やはり曲を作った私が直々に謝罪しに行かなければと、今日先生のお宅にお邪魔した次第です…。この度は…、本当に、申し訳御座いませんでした…、私が」

不気味な笑みを浮かべ、

「たっぷりとお詫びをいたしますよ」



そう言うと同時に自身の怒張を露わにするMacky。レイジは腰を抜かしたまま動けなくなっていた。老いても若い娘を欲する老獪よりも、その老獪をも好物としているハングリースパイダーの方が一枚上手であった。その夜、レイジ邸からは断末魔のような叫び声が周囲に響き、朝までそれが途絶えることは無かった。



老いて若い娘を欲したのがいけなかったのか。この歳で大変なトラウマを背負ってしまった。確かに上手く行きすぎだとは思った。だがあたい…、いや、ワシは負けない。もう恋なんてしないなんて言わないよ、絶対。レイジがそう言ったかどうかは定かではないが、後日、盗作疑惑自体はそんなに気にしていなかったのにも関わらず、その恨みのこともあり例の曲は盗作だとマスコミに公表する。騒動の発端である。





鮫肌


桃尻って言葉ありますよね。まぁ良く使われる言葉ですし、ニュアンスはなんとなく伝わるんですが、桃と尻との因果関係が童貞の私にはピンと来ない。そこで、好奇心旺盛な自分は近くのスーパーで実際に桃を買って来て、まずは机に置いて眺めたんです。


とりあえず数分眺めてみたんですが、やはりいまいちピンと来ない。なので、実際に触ってみました。本当に女性の尻に触れるように、優しく、且つ、滑らかに。しかしそれでもいまいちピンと来ない。もっと尻ってのはドシッ、と来てズン、と来るはずだと。しかしそうではあるが男の尻にはない張りのある柔らかさがある筈だと。え?童貞なのに詳しい?そうですね、私確かに童貞ですがあくまでそれは素人相手の話、つまり素人童貞と言うことであって、玄人の方は童貞と言うか、もはや500人斬りはゆうに超えております。これも私の好奇心あり余る故の数字ですね。実際の尻の感触は知っているんですがピンと来ないんです。


とにかく今まで身銭を切ってまで触って来た尻と桃の因果関係が全くわからない。まぁ言っても始まらないので更に触ってみたんです。そうしていると、私、長く触っていくうちにちょっと欲情してきちゃいましてね。ちょっとと言うか尋常じゃないほど欲情してきちゃいましてね。我慢できなくなった私は、ふと、桃のちょうど尻穴の部分から種を丁寧に取り出してみました。するとどうでしょう、私ののサイズにぴったりではありませんか。気づいたら夢中で腰を振っていました。そして果ててしまいました。果実の中に果ててしまいました。


バカなことしたなと、だがどこか清々しい気持ちでその桃を切っておいしく頂いていたんですが、私の愚息が変なんです。痒くて熱いんです。生来肌が弱い私の愚息は、桃に完全にかぶれてしまってました。死ぬほど恥ずかしいけどどうしようもないので病院に行って、素直に「桃で自慰行為をしたためかぶれてしまいました」と言いました。その時の周りの絶句具合。本当に死のうと思いましたね。私の好奇心のためにこんな死ぬような思いをしてしまいました。だが私は後悔などしていません。私は、私の好奇心が満たされる時が何よりの充実した瞬間なのです。以上が、先日御社に送付した履歴書の長所欄に「好奇心旺盛である」と書いた理由でございます。




立野とカシマ


新任教師の立野は窮地を迎えていた。担任を受け持っているクラスの男子、カシマが教室でサバイバルナイフを自分の首元に突き付け、「自殺する」とのたまっているのだ。



今年新しく地元の中学校に赴任した立野だが、新任なだけあって相当パニクっていた。とりあえず事を収めようと、だが力づくでナイフをとりあげるのは手元が狂ったりして何が起こるかわからないから危ないので、まずは説得をすることにした。



「カシマ、落ち着け。まずは話し合おう、な?」

いかにも失敗しそうなベタな言い出しになったが、訂正する余裕もないためやむを得ず話を進めた。

「…なぜ死のうなんて思ったんだ?」

「…うんざりなんだ。僕はこのまま中学、高校と勉強をして、ほどほどの会社に入って、金を得て、死ぬのを待つ、ざっとこんな感じでしかない人生なのに、なぜ僕は苦痛や絶望を味わいながら生きていかないとダメなんだ?なんで生きているんだ、ねぇ先生、僕の生きている意味ってなんなんだろう!?」



思春期特有の物言いである。立野は思った。めんどくせぇ。昨今問題になってるいじめ問題から見ると、なんて平和な悩みなんだ。アレだ、お前はまず中学生日記を通年見ろ、話はそれからだ。一瞬そんな事が頭をよぎったがそんなこと言って逆撫でしてもしょうがないので、とりあえず説き伏せてみよう、そう考え説得を試みた。



「…なぁ、カシマよ。人間ってのは悩みながら生きていくものなんだ。先生くらいの歳になっても悩み続けているのよ。で、だ。カシマの言ってる『生きている意味ってなに?』との話だが、実は俺も小さい頃からそれをずっと考えながら生きているんだ。」

「しかし何年考えても答えは出ない。出ないんだ。だけど出ないままだが先生は今がむしゃらに生きている。必死に走り続けているんだ。先生は今教師という職業を選んで働いているが、特に先生になりたいと思ってたわけじゃないんだ。免許持っていたし、他に働き先もなかったからしょうがなく教師になったんだ。」

「まぁだらだら教壇立って低レベルな数学教えて給料貰えれば御の字、みたいな考えだったが、甘かった。生徒と接するのはこんな大変なのか。毎日トラブルは起きるわ。変なことあったらすぐ父母に責められるわ。たまに自分の考えと違うことを教えないといけないわ。カシマみたいな手のかかる生徒もいるわけだしな。」

「先生は今がむしゃらに走っている。さっき言った通り教師になるのが夢だった、と言うことでもないから、これが俺の生きる意味、とは言えない。だが先生は毎日を死ぬ気でこなして、疲れて寝る前とかには、なぜだか知らないが充足感で満たされるときがあるんだ。なぁ、カシマよ。生きる意味なんて無理に探さなくてもいいんじゃないか?ただ毎日を、一生懸命生きていればそれでいいと思うな。」



決まった。まあまあ上出来だろう。教師の鑑のような綺麗事だ。



「そうよ、カシマくん!」我がクラスの女生徒が私の話に乗っかってきた。私の思った通りの展開だ。これでクラスの生徒達が

「そうよ、カシマくん!生きる意味なんて私にもわからない、ただ、今は部活、陸上をとにかく頑張ろう、ただ頑張ろう。もっと速く走りたい、遠くに飛びたい、それだけを思って生きているだけだもの!だけど、たまに、あぁ、私生きてるなぁ、そう思うことがあるのよ!」

「俺もたまにそんな感じで悩むことがあるよ。ただ、今は絵を上手くなりたい、頑張って生きたい、そう思っているんだ。カシマも漫画が得意じゃないか、おまえの漫画は面白いよ実際。お前が死んだら、その漫画がもう読めなくなると思うと寂しいよ。」

などなどと畳み掛けて、生きる意味なんて誰もみんなわからないんだぜ、そう言う三文芝居みたいな展開になって万々歳、「本当はな、今の一番の生きる活力になっているのは、可愛いお前らだよ」とかなんとか恥ずかしくて言えなかった本音を心の声で言いつつ贈る言葉と同時にエンディングロールが流れるに違いない。これが立野の思い描いた落着法であった。



だが話は立野の思わぬ方向に展開した。



「そうよ、カシマくん!先生は本当に生きる意味がないのよ!この歳になっても童貞だし、たまの休みはAV見て抜いては寝、AV見て抜いては寝を繰り返すだけで一日が終わるのよ!」

「そうだぞ、カシマ。俺の兄貴、先生と同じクラスだったんだけど、先生はその頃『体臭の権化』って呼ばれていたらしいんだぞ。それよかは全然生きてる意味あるよお前。」

「先生はいい大人なのに中学生の私の胸をガン見して勃起したのを確かに目撃した。そんなクソみたいなロリコン野郎よりかは間違いなくカシマのがいい。」

「おでの親父が勤務してる病院にぃ先生が健康診断しに来たときにぃ親父が『…誰にも言ってはいかんぞ。先生の余命はあと半年だ。』って言ってた。」



「そうか…。こんなに救いようも余命もない大人でも一生懸命立派に生きようとしているのか。生きる意味なんて特に無くてもいいんだ!俺…頑張るよ!先生、みんな、ありがとうな!!」

立野の思い描いた話にはならなかったが、一応話は収束した。一件落着である。カシマは何かつっかえが取れたような、とても清々しい顔になった。



「…これですっきりしたろう、カシマ。じゃあみんな、先生やることがあるから早く帰りなさい」と立野が言ってその日は解散になった。



今日から俺も頑張ろう。そうだ、俺は漫画を描くのが好きなんだ。その漫画でみなを楽しませよう。生きる意味なんて俺にはわからないけど、俺の漫画を見て笑うみんなの顔を見るのは、すごく好きなんだ。ありがとうみんな。そしてありがとう先生。翌日、カシマは実に晴れ晴れした顔で学校へと登校した。

「おはよう、みんな!」だがその顔を最初に迎えたのは暖かくカシマを迎えるクラスメイトの笑顔ではなく、「皆の言うとおり先生には生きている意味がないようですし、生きる気力も失いました」と書いてある黒板の前の教壇上で首を吊り凄惨な表情を浮かべる立野の死に顔であった。