サトウイヌ

 新年に神のもとへ挨拶に訪れた順に、十二年のそれぞれを守護する動物を決めるというおふれを聞いた時、内心龍は得意満面だった。

 なぜならほかならぬ神自らがその手で創りたもうし神獣であるこの自分、自由に天を駆け、その咆哮で雷鳴を呼び、嵐で巨大な船さえ沈める能力を賜りしこの自分、この龍が、あまたの凡百な動物たちに遅れをとることなど万に一つにもあり得ないからで、さしずめ今回の勅令もまた、神の寵愛を一身に浴びたこの龍になおさらなる輝かしい栄誉を与えようと気まぐれをおこした神の、しかし他の動物たちへの体面もひとまずおもんばかったゆえに講じられた、ひとつの茶番であるとすら思えた。

 十二支の筆頭を飾るのはもちろんこの自分がふさわしいのだし、ほかの動物たちもみな同じ気持ちなのだろう。浮き足だった様子であれこれと仲間同士談笑している合い間にも、さりげなくちらちらと龍の様子を窺う視線がひっきりなしに感じられる。

 歩みの遅い牛などは一番乗りのために大晦日から出発するつもりだと言い、体の小さな鼠などはさらに何か企みごとを計っている様子だったが、なに、どうせ自分の敵ではない。二位以下を争うことに血道をあげるしかない凡夫たちはせいぜい身の丈にあった枠の中であがいておればよいのだし、それを尻目に当日は一足先に神の傍らにはべり、自分はその一部始終を高みの見物としゃれ込むとしよう。その日我が身に与えられるであろう賞賛と羨望の数々を思うと、はちきれるような喜びと誇らしさで、龍は今からその日が待ち遠しいほどだった。

 新年。

 死者を司る仙により旧い年が静かに巻きとられ、おろしたての一年のひかれたその第一日目、すでに高く昇った日が天頂を過ぎ傾きかける頃になって、ようやく龍は重い瞼を上げた。

(そろそろ行くかな)

 寝起きのはっきりしない頭のままで四肢にほんの少し力をこめると、たちまちその大きな体は軽々と宙へ浮き天空の高みへと飛翔する。さらに身をひとつくねらせ上昇すると、それだけでもはや地上はかすむ眼下にあり、ひとつ呼吸の前までその身を横たえていた洞穴は、はるか後方の彼方だった。

 そのまま目覚ましついでに頭をぶるんとふるい、鉤爪のついた脚でいく度か宙を蹴る。と、数秒後にはあっけないほど簡単に、龍は目的地である天帝のおわす城門の上空に静止していた。ふん、とつまらなそうに髭を揺らし地上を睥睨すると、その視線の先には今も城へと続く途を行く動物たちの、それぞれの姿が俯瞰で見てとれた。

 まず、先頭に見えるのは牛の姿だった。どういうつもりなのかその背に鼠を乗せ、ゆっくりと道々の草をはみながら、龍のいる地点まであと山ひとつというところに緩慢な足どりで歩を進めている。次に続くのは虎だった。牛からやや遅れをとりながらも、長距離を走破するには少々適さぬ脚で悠然と大地を踏み進めている。そのさらに後続には、うっかり虎の前に出て食われてしまわぬようという配慮だろうか。ひっそりと風下の位置に注意をはらいながら、つかずはなれずといった距離にひかえる兎の姿があった。その他の蛇や馬、羊たちなどはまだだいぶ離れた場所にいるようで、視界の隅にちらばる砂粒のようにしか確認できない。

 そのことごとくを一瞥にして掌握し、ゆるゆると空の上でとぐろを巻きながら、龍は冷静にその状況を吟味した。彼らは頭上で自分たちを観察している龍の存在にはみじんも気づかぬまま、それぞれのペースでひたすらにせっせと行程を進んでいる。それを眺める龍の脳裏に、ふとある思いつきがひらめいた。

 このまま一気に彼らを抜き去り真っ先に神の御許に参じることなどは造作もないことだが、それでは当たり前すぎておもしろくなかろう。先頭の動物があともう少しでゴールへ辿り着く、あとほんの数歩踏み出せば勝敗が決するという瞬間、観戦の仙たちが固唾を飲んで見守り、龍はいったいどうしたのだろうと誰もが案じるその瞬間、上空にひかえていた自分があざやかに降り立ち勝利の座を奪い去るのだ。

 そうしてこそ龍と他の動物たちとの生物としての格差がいっそう浮き彫りになるというものだし、ひいてはそれは、龍をお造りになった天帝の功績をも讃える行為であろう。これ以上ないほど明確な勝利によって皆を感服させ口々にお褒めにあずかる龍の姿に、あまたの動物たちの中でもとりわけそのようなすばらしい生き物を創った事を神は必ず満足に思ってくださるに相違なく、そうした形で主の恩に報いる龍の存在を、神はますます寵愛し重んじてくださることだろう。

 そう、全ては龍のために用意された余興なのであり、せいぜい劇的な結末を演出してこそ主役の任にふさわしかろう。あれこれと思いめぐらし結論にいたった龍はにんまりして、遅々としてはかどらない動物たちの行進を、しばしほくそ笑みながら見守り、待つことにした。

 夕暮れ。

 龍が城門付近に到着してから数刻あまりが経過し、西の空にたなびく雲が朱色に染まり、東の山あいから星々が遠慮がちにのぞき煌めく頃、牛はようよう先程の山を踏破し城門へと続くなだらかな坂道へとさしかかるところだった。もちろんその背にはあいかわず鼠がちいさな君主然と鎮座している。退屈をもてあまし空中で舟をこいでいた龍はようやく半眼を開け、巨大な顎をがぱりと開けて大儀そうにあくびをひとつした。

(もうそろそろかな)

 筋肉と鱗につつまれた体をあやつり、とぐろをゆっくりと巻きなおしながら慎重にタイミングを見計らう。牛は先程の坂道をのぼりきり、城門の一部の磨かれた階段に蹄を踏み入れようとするところだった。それを上がりきると、念願の城門が開き、奥には天帝が玉座を設け動物たちの到着を待ちかねている。

 牛が階段の半分を昇りきり、今しも城門の入口へ届こうとするまさにその瞬間、龍はぐっと胴を反らし、ひきしぼられる弓のように首をたわめると、いちどきに緊張を爆発させ雷のようにまっしぐらに地上めがけ急降下した。龍の巨体と摩擦した空気が鱗の表面でちりちりと火花となり、焦げくさい匂いがつんと鼻をつく。目もくらむような速度で変わる視界の端で、何も知らぬげな牛の背から鼠がぴょんとジャンプするのがちらりと見えた。それすら頓着せずもろとも跳び超えひと思いに神の御前へ踊り立つその刹那、


 唐突に、景色が変わった。


 牛も、鼠もいない。虎も、兎もいない。


 一瞬前まで龍の周囲に広がっていたはずの風景は跡形もなく消失し、代わりに突如として出現したのは、今までいた場所とは似ても似つかぬ砂ばかりの不毛な大地だった。

(馬鹿な)

 山間にたゆたう茜色の雲も、すぐそこに見えていた城門も、全てが見事にかき消えていた。狼狽し硬直する龍の眼前に広がるのは、雷鳴轟き暗雲立ちこめる不気味な闇ばかり。

(何が)

 信じられぬ思いで茫然とあたりを見回すと、空に浮かぶ龍のはるかな足下、地上に佇む複数の人間たちの姿がまばらにあった。いずれも畏怖の表情で龍を見上げる彼らの中心にはこぶし大ほどの輝く何かが散らばっている。なおも目をこらすと、それは丸い形をしていた。ひとつずつその数を増やす星が刻まれたそれら七つの珠が、暗闇の中、まばゆいほどのオレンジ色に、光を放っていた。

匿名希望

『 マトリョーシカ 』


価値観だろうか。
それとも単にジェネレーションギャップだろうか。


インターネットを介して友人になった
年代性別等の異なる方々と話していると話が噛み合わない時がある。


割っても何も出そうにない竹のように中身のないスッカラカンな頭
例えるなら竹頭のような私とは絡み難い故なのだろうか。


確かに私はそれらの若い友人達と比べると
クチバシまでの重さが最大150kg未満の老齢で物のない時代に生まれた。


ファミコンなんて
二本足歩行ができ蹄が割れる前に現れた。


その当時の遊び道具なんてダンゴ虫かウンコくらいしかなかった為
ファミコンと言うハイテクマシーンの登場には狂喜乱舞阿鼻叫喚した。


生まれながらにして次世代ゲームやお手伝いリアルドールが身近にある
今の若い世代と私の世代の価値観が違うのは当然だと言わざるを得ない。


ネットへ垂れ流しの無修正な情報やエロい画像なんて
私が小さなサイズの頃には考えられなかった。


エロい画像なんて
大通りから少し離れた住宅街の中にある忘れられた様な


そう
竹藪に落ちていて


カラーページが風雨に曝されパリパリに張り付いたエロい大人の雑誌
当時はビニ本って言われていたが何でそう言っていたかと言うと


たぶん購入した時
中身が分からない様に店員さんがビニール袋に入れてくれたか


モデルがビニール人形の裸体写真だからだと思うんだけど
その頃 裸の女の人の載った本なんて興味がなく


買っていたのは
ロリポップだとかレモンピープルなんかの二次元ロリ漫画で


大人の階段のぼるシンデレラになった頃に
フラミンゴを買おうと夢見てたけれど廃刊してしまったので
流れ的に今は快楽天純愛果実へ走りました。


「どこが純愛やねん」と云う疑問だけが残ったまま結局
ビニ本の言われなんて結局分からずじまいでさして三次元に興味ねぇ。


今の若い世代はそんなホシ印で修正されたエロい本だとかタ
ケノコだとかを拾ったりするドキドキイベントなんてないのだろうか。


これは簡単なようで
実際行動するには結構危険な行為だ。


地面からぐんと頭が伸びているタケノコなんて
剥いても剥いても剥いても剥いても食べられる代物じゃないと言う
恐ろしいほど無限ループな危険性が待ち受けている事を私は訴えたい。


実際問題タケノコと言うあの食材はその根底にある塊を食するものだが
本当は皮も食べれるって事を
無知な私が知らないだけなのでは?と言う疑問が生まれる。


素人には分からない事は
やはりエキスパートに聞いた方が良いのだろう。


竹のエキスパートと言えばパンダかかぐや姫だ。


しかしパンダはスーパースターで近付く事まかりならないし
かぐや姫も姫と呼ばれるくらいだから
ひっくり返した石の下からも見つけられないくらい稀有な存在だろう。


父の世代には結構いたかも知れないが
かぐや姫を見た事あるかなどと聞いたところで


冗談とフランス語の通じない真面目一徹な
アダマンタイトの頭を持つ父に頭突きをされて


その中身のないスッカラカンな竹頭を
パッカーンとかち割ら




あ。
かぐや姫発見。




価値観だろうか。
それとも単にジェネレーションギャップだろうか。


インターネットを介して友人になった
年代性別等の異なる方々と話していると話が噛み合わない時がある。


割ったらかぐや姫が出てきた竹のようだが中身は意外と詰まった頭
例えるなら鳥頭のような私とは絡み難い故なのだろうか。


確かに私はそれらの若い友人達と比べると
クチバシまでの重さが最大150kg未満の老齢で物のない時代に生まれた。

脳とラムネ

『無意味な嘘』





こんにちは、おはようございます。さて、何の話をしましょうか。じゃああの話をしましょう。これはある男が本当に体験した話です。やめよう。やめよう。こんな話したってどうにもならないじゃないですか。もういいですよ。だって全部嘘ですもん。どうして嘘つかなきゃいけないんですか?何なんですか?どうして没個性の一凡人の嘘なんて読むんですか?そうですよ。どうせ僕なんか凡人以下ですよ。何なんですか。もういいですよ。すいませんなんの話でしたっけ?あぁある男の体験した話でしたね。それでその話をやめようって話でしたね。いや、どうせだから話しましょうか。話しましょうね。うん、それが良いですね。

これはある男が本当に体験した話です。その男はどうして夕日が赤いかについて知りたがっていました。なのでいろいろな知人に、どうして夕日が赤いかについてたずねていました。ある人はそれは昔からそうだからそうなのだと言いました。またある人はあれは神様の血の色なのだと言いました。別のある人は日が傾くと日中に比べ光の入ってくる距離が伸び虹の七色が届かず少しずつ消えて最終的に赤が残るのだと言い、ある人は黒かったら夕日が見えないだろと言い、ある人はパイナップルが好きでした。僕はいっぱい食べると口の中が痺れるけれどそういう所も含めて好きです。しかし男はそれらの答えに納得できませんでした。

レミングという生物は個体数が増えすぎると海へ飛び込んで集団自殺をするという話は有名ですが、それ以上に有名なのが人間は食べ物を食べないと死ぬということです。これは寝ないと死ぬや水を飲まないと死ぬ等に並んで有名ですが、人間にも食べられないものがあるというのはあまり知られていません。なので男はいろいろな物を食べました。食べていくうちにどうして夕日が赤いかについての疑問が消えてそうになり、その為にさらに多くのものを食べるという一種のジレンマに落ちいりました。そうして気がつくと男は太っていました。男は太りに太って丸くなりました。ある日男はそんな自分の姿を見て思いました。まるで僕は夕日のようじゃないかと。ごめん、嘘。そういう話じゃない。

男は太ってしまったので死ぬことにしました。しかし死に方がわからないのでやめました。なので進化することにしました。けれども進化するには八つの秘宝を手に入れなくてはいけなかったので、これもやめました。そうして気がつけば一ヵ月後には男はガリガリに痩せていました。どうして一ヶ月後には痩せていたのか、これは今もって謎に包まれています。この謎は永遠にわからないかもしれません。しかしこの世に永遠というものはありません。いつの日かきっと誰かがこの謎に挑戦し、その秘密を解くでしょう。そしてその謎を解くのはあなたかもしれません。それはそれとして痩せた男は元気でした。とても元気だったのすぐにバテてしまいました。なのでどうして地面はあるのかという事が気になりました。しかしバテた男は先ほども言ったように記憶をすべて失っていたので知人もいず、どうして地面があるのかという疑問を聞く人がいませんでした。なので男は自分で考えることにしました。そうして男は餓死しました。短い人生でした。

しかしなんと男は死んでいませんでした。生きていたのです。奇跡です。ありえないことです。ありえないことなので、やっぱり男は死んでいました。しかしなんと男は死んでいませんでした。なんと餓死したと思われた男は実は毎日ちゃんと食べ物を食べていたのです。これを奇跡といわずとして何を奇跡というのでしょう?男が生きていたという事実に世界中が歓喜に沸きました。しかしただ一人だけが生きていた男は前の男とは違う人物であると言う事に気がついていました。けれどそれについてはこの物語となんら関係も無いのでこれ以上話しません。とにかく世界が歓喜に沸いたので男はがんばりました。何をがんばったのか、これは今もって謎に包まれています。この謎は永遠にわからないかもしれません。しかしこの世に永遠というものはありません。いつの日かきっと誰かがこの謎に挑戦し、その秘密を解くでしょう。そしてその謎を解くのはあなたかもしれません。とにかくこれを機に男はがんばりました。そしてがんばった結果がこの様です。やってられません。

そう言う訳で男は旅に出ました。それはあての無い旅でした。東へ行って西に行って北へ行って南に行きました。そして結局元居たところへ戻ってきました。男は結局ここへ戻ってきてしまったのだなと自嘲気味笑いましたが、一度死んだことによりすべての感情が欠落していたので笑いませんでした。あとよくよく考えたら旅にも出ていませんでした。あとがんばりもしませんでした。それに死んでもいませんでした。痩せもしませんでした。太りもしませんでした。パイナップルもそんなに好きではありませんでした。むしろ皮を剥くのが楽なので蜜柑が好きです。すべては儚い夢だったのです。それでも男は人助けをやめませんでした。その姿に世界は涙しましたが、一度死んだことによりすべての感情が欠落していたので涙しませんでした。そういうわけでこの後どういう話なのかを忘れました。あ、思い出した。うん、続けるよ。

男は人助けをする夢を見ていました。夢の中で男は人助けをしていました。男は他にも意見が食い違ったり怒られたりする夢も見ました。だから何ですか?とにかく男はどうして鳥は飛ぶのだろうかということを、どうして自分は疑問に思うのだろうかということについて考えたのです。その結果自分は少し普通の人と違った思考形態をしているのだと気がつきました。しかしこの世の中にまったく普通の人というのはいません。皆どこか普通とは少し違うものです。なので男は安心しました。そこで男は安心とは何かについて考えることにしました。

安心とはいったい何か、その答えは日本のちょうど反対側、地球からたった4.22光年、太陽に最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリにありました。暑くていけなかったので結局男は安心とは何かはわかりませんでした。ここで、男の半生に触れておきましょう。男は生まれました。その後いろいろありました。そして今に至ります。今といってもこの物語の中の今です。この話が語られるずっとずっと前にすでに男は神に等しき存在へと退化しています。していマッスル。うーんとね。あの、実はさぁ。さっきどんな話だったのか忘れたけどその後すぐ思い出したって言ったじゃん?実は思い出してなかったんだよね。どんな話だったか。ごめん。今思い出したわ。本当にごめん。さっきから今までのところ無しね。

男は人助けをやめませんでした。それは世界への奉仕の為であるのと同時に、自己の存在を証明するためでした。どうして人助けが自己の存在を証明するのかはわかりませんでしたが、男は来る日も来る日も人助けをし続けました。人を助けて、人を助けて、人を助けて、助けて、助けて、そんなある日男は気がつきました。男が人だと思っていたものは実は公園のゴミ箱だったのです。男は愕然としました。それはそうでしょう?考えても見てください。あなたが人だと思っていたものが実は公園のゴミ箱だと知ったらどう思います?わからない?あなたは共感能力が無いんですか?とにかく男は愕然としたので愕然としました。それはそれは愕然としました。どのように愕然としたかというと、愕然としたとしか表現ができないような愕然の仕方でした。とにかく愕然としたので、男は愕然としないようにしました。一体どうやって愕然としないようにしたか?これは別に秘密ではありません。それはいたって単純な方法でした。単純なのでここでお話しするのもどうかと思いますのでやめておきますが、その方法で男は二度と愕然とすることは無くなりました。

それはそれとして男は宇宙人に会いました。その宇宙人は遥か遠く遠く人類が一生をかけても決して行くことのできない距離、地球からなんと1光年もの距離にある惑星、ナンニモイイコトノナイジン星(あくまでその星の言葉で、日本語では地球と同意)から男に不老不死をあげる為にやってきたのです。どうして男に不老不死をあげるのか?それは宇宙人がナンニモイイコトノナイジン星で大金持ちだからなのです。大金持ちで大金持ちでお金が余ってしまって誰かにあげたいのだけれどナンニモイイコトノナイジン星ではすべての人が大金持ちなのであげる人がいない。じゃあ発展途上惑星の為にお金のかかる不老不死をランダムに選んだ人にあげて優越感に浸ろう!そうして選ばれたのが男だったというわけなのです。アフリカに食料でもやってろブタ野郎。(別にナンニモイイコトノナイジン星人がブタに似ているわけではありません。性格的な意味です。いっぱい食べるという意味ではありません。卑しいという意味です。)

しかし男はそれを断りました。男はこれ以上何にもいいことのない人生(これはナンニモイイコトノナイジン星語で地球の意味ではなく日本語で良いことが何一つ無い人生という意味です。)を延々と続けるということを想像しただけで吐き気がしたからです。けれども宇宙人もお金を捨てにせっかく地球までやってきたのです。おいそれと帰れません。だからアフリカに食料でもやってろブタ野郎。(ナンニモイイコトノナイジン星人はブタよりはむしろミジンコに似ています。大きさではなく見た目がです。あとさっき言った卑しいというのはお金を使って優越感に浸ろうとする根性が下品だという意味です。)しかたが無いので二番目にお金のかかる空を飛ぶ薬をあげると言いました。男はそれならと納得して薬を貰い、宇宙人は男の家に公園に置いてあるような大きなゴミ箱があったのでなんとなくそれを盗んで帰りました。

そうして男は空を飛ぶことができる様になりました。それはそれはすばらしい体験でした。男はそのすばらしい体験を今まで知らなかったことに愕然としました。それ程すばらしかったのです。しかし不運は突然やってきました。それは不運というよりも不幸といったほうが適切なのではないかと思うほどの不運だったのでしょうか?とにかく不運が100人のお供を従えて世界を征服にやってきたのです。不運と100人のお供に人間たちは力の限り立ち向かいましたがまったく歯が立ちませんでした。なぜならば不運と100人のお供は実は人間が使った恐ろしい兵器達の霊だったのです。それはあまりに悲劇的な出来事でした。楽しさに時間を忘れて飛んでいたせいで薬が切れてしまい地面に落下してしまったのです。高度45000mからの落下。パラシュートなんてありません。地面はどんどん近づいてきます。一体そんな時に人間に何ができるでしょう?何もできません。男の体は地面にたたきつけられ、男の体はバラバラに砕けました。だがしかし男は死んでいませんでした。

ぶつかったはずみで魂が入れ替わってしまうなんていうお話は虚構の中では割りとベタなので皆さん一度は聞いたことがあるでしょう。この虚構の中ではベタだけれど現実では決して起こりえない出来事が男の身に起きました。つまり地面と魂が入れ替わってしまったのです。男は愕然としました。人間から地面になったのです。誰だって愕然とするでしょう。しかしもっと愕然としたのは元地面です。気がついたら全身が痛くてその5時間後には息を引き取ったのですから。それはもう元地面は天国で愕然としました。愕然としすぎてむしろ

男は地面になったと気がついた時、先程も言いましたがそれはそれは愕然としました。しかし少しすると地面というものはそんなに悪いものではない、むしろ人間の時より良いのでは無いかということに気がつきました。痛い思いも嫌な思いもしない。何かを知る必要はないし何かを考える必要も無い。ボーっとしているだけがすべてでありそれ以外には何も必要無い。男にとってそれはまさに天国でした。その頃、元地面は比喩的な意味合いではなく天国にいました。そして男を呪い殺そうとしていました。しかしこの世に呪いなどという非科学的な物は存在せず男は呪いになんてかかりませんでした。余談ですが男はどうして地面があるのか?という疑問の答えがわかる状態でしたが前述の通りその事を疑問に思った男と、地面になった男は別人だったので男はその回答を得ようとしませんでした。なのでどうして地面があるのかという問題の答えは今もわかっていません。

地面は不老不死でした。その証拠に男は地面のまま1億年近く過ごしました。その間に地球に直径50kmの巨大隕石が落ちて人類を含む生命の9割以上が滅びましたが男は何も感じませんでした。しかし幸せは長くは続きませんでした。地面になってから一年、その生活は突如終わりを告げました。スカイダイビングが趣味の女性のパラシュートが運悪く開かず、彼女は地面と衝突してしまったのです。そして男が地面に叩きつけられた時と同じことが起こりました。そうです。魂が入れ替わってしまったのです。

男は(女性の体は)病院に運ばれ一命を取り留めました。これを知った天国の元地面は大変憤慨しましたが死人にできることは何もありませんでした。この出来事により男はルーシー・ブラウンと言う76歳の女性の(76歳という老婆の体がなぜ大丈夫だったかと言う疑問を皆さんは抱くでしょうが物語とは往々にしてこのようなご都合主義によって構成されている物なのです。)名前とボロボロの肉体、男の知らない今までの人生とその後人生。いくらかの土地とまぁ住み心地の良い家の権利と銀行に預けてあるそんなに多くない額のお金。それと地球の女性では始めて、宇宙中の女性では42.5人目に(雌雄両性体を0.5と数えているので実際は45人目)放射性粒子結合ダイヤモンドというゲームをした人物としての名声と合衆国国籍を得ました。ちなみに不幸なルーシー・ブラウンさんは地面になった瞬間発狂しました。

それだけのものを得たのは良いのですが、地面から人間に戻ったことへの恐怖と英語が話せなかったのでどうしたら良いのかわからなくなった男は地面になったルーシー・ブラウンさんと大差の無い状態になりました。そして病院の窓から飛び降りました。もう一度地面にぶつかれば地面になれると思ったのしょう。しかし4階から飛び降りただけの衝撃では魂は入れ替わらず、この間まで死に掛けていた76歳の老婆の体はやすやすと壊れてしまいました。そうして今度こそ男は完全に死にました。

そうして神と融合した男は現世に赴き7日7晩地上を浄化と言う名の元に焼き払い、さながら地獄絵図を作り出しました。人間がすべて死に絶えた後、神となった男は地上を無人の楽園に変え土から一人の男を作りました。この男こそがアダムであり、後にこの男の肋骨から生まれるのがイブです。嘘です。最初からここまでそしてこれからもすべて嘘です。私はあなたに嘘をつくためにこの汚い文章を書いたのです。しかしあなたは私が嘘をつくためにこの汚い文章を書いたことを知っていました。そしてあなたは最初から最後まですべて嘘だとわかっていながらこの汚い文章をここまで読んでくれたのです。あぁなんと心の優しい人でしょう!ありがとうございます!ありがとうございます!!生きていて良かった!

そういうわけで時間と空間は常にひとつであり僕らが生きるのを手伝ってくれています。だって天上神と破壊神は常に僕の心の中にいるんですもの。そうなんです。世界はいつだって群青色。嘘ですとしかしとだがとけれどもばかりなのは周知の事実なんです。もしかしたら明日は誰かの父親が自分は鶏ガラスープと結婚していたんだと告げるかもしれませんし告げないかもしれません。それが一体なんの野菜スープなのでしょうか?だって世界はいつだって黄土色なんですから。どんなに世の中が発展したってポタージュスープなんです。それだけがさようならの吹き溜まりと掃き溜めに関する夢のような心なのですから。どうして僕は文章を書いたのでしょうか?その答えはきっとありません。だっていつだって星たちはマネキンの裸にドキっとするし現実的な問題を無視してそれを肴にしてお酒を飲むのだから。それを知った時あなたは一体どこの馬の骨なのでしょうか?それだけが僕と私の間に交わされた約束のひとつなのかと世界遺産はおもっていたのかもしれないと君は言ってくれていたという記憶は本物と証明することはできるのでしょうか?さようなら明後日さようなら木曜日さようならタオルケットさようならヨモギの葉っぱさようならさようならさようならまたいつの日か会いましょう。そしてもう二度と会わないようにしましょう。さようならさようなら。こんばんは、そしておやすみなさい。くたばりやがれ。

以下蛇足。

そうして、死んだ男は地獄にいました。それはそうです。男は人助けを一度もしたことが無いにも関わらずお茶碗に残ったご飯粒を残したことが何度もあったのですから。男は地獄でパイナップル農家を始めました。男の作ったパイナップルは蜜柑の味がすると大評判で近々現世でも発売される予定。お買い求めはお近くのスーパー、コンビニで。さようなら。

飛んだったきりトビウオ

ピンク色の髪の姉ちゃんが僕の駅(と言っても僕のものではない。みんなが使う駅だから一人ひとりが最低限のマナーを持ってキレイに使わなくてはいけないのである)で降りるのを見ました。こんな人今までこの駅で見たことがあっただろうか。ぴらぴらの、今流行ってるメイドさんが着ているようなスカートをはいて黒縁の眼鏡をかけていらっしゃった(今とても臭いおならをこいてしまって誰かに言いたいのだけれど周りに誰もいないのでここにこうして書いてみよう)。ヒタヒタと近寄ってよく見てみると、ピンクと金色がところどころ混ざっている。馬鹿でかいトートバックを肩にしょって、スネが隠れるほどのブーツをはいてらっしゃる。そしてその姉ちゃんはカツカツと闇の中に消えていったのでした。

それから一週間後。僕が学校の近くの駅で電車が連結されるのを見物しておりますと(しかしながら電車が連結されるのを見るのはなんで楽しいのだろう。ホームで待つ二両編成の電車にガタゴトとやって来た二両の電車が近づく。「もう!遅いじゃないの!」「ごめんごめん」「ふんだ」「むくれちゃって。かわいいなー」そんな微笑ましい会話さえ聞こえてくるようだ。駅員さんが三人ほど集まってくる。どこからともなくがやがやと観衆が集まる。一人の駅員さんが、止まっている電車の後ろのドアを開けてタイミングを見計らう。ピー。笛が駅全体に響き渡った。一方の電車が進んで一方の電車とつながろうとする。「うんっ、きて・・・」ガタッ!おしい!少し勢いが足りなかった。「もう!じらさないでったら!」「よしよし。力を抜いて・・・そう・・・じゃあいくよ」少し間を置いて再び電車が動いた。
・・・ガチャン「あああっっ!」「ふおおっっ」ぷしゅうーと吐息のような音を響かせた電車は、もういつもの顔に戻っていた。そして今まで心を一つにしていた観客達もお互い顔を見合すことすらなく、黙ってそれぞれの路に戻っていくのだった。)なんとあのピンク色の髪の乙女がかつかつと僕の前を通り過ぎるではありませんか。いまから帰るのかしら。同じ駅で乗って同じ駅で降りてたんですね僕達!もう心はつながっているも同然。だって同じ駅で乗って同じ駅で降りてるんだもの。そんなわけで恋人気分で彼女か腰掛けた前につり革持って立ってました。え?男が座ったらみっともないでしょう?ガタンゴトンガタンゴトン。ふーんよく見ると頭のてっぺんは黒くなってる。つまり髪を染めてからどれだけ髪が伸びたかがわかるわけですな。四、五センチくらいはあるから一ヶ月だいたい二センチくらいとして(駅前の理髪店のおっさん談)二、三ヶ月前に染めたってことになりますな。染め直したのか?それとも・・・「駅前のいつもの喫茶店で」しばらく会っていなかったアツシから連絡があった。なにやら話があるようだ。鏡の前で自慢の黒髪をくしでとかしてピン子は玄関を出た。空は八月に似つかわしくカッと晴れてムシムシしていた。アツシは窓際の席に陣取っていた。ピン子を見つけると軽く手を上げて応じた。「しばらくだったわね」「ああ・・・忙しくて、な」「・・・そう」会話が途絶えた。話したいことはたくさんあったはずなのだけれど、何か、そうさせない何かが今日のアツシにはあった。「・・・・・・もう別れようぜ」数分の沈黙の後、アツシはぽつりとそう言った。しかし目はあさっての方向を向いていた。「・・・どうして」「オレ東京に行くんだ」「そんな・・・あんたこっちで就職するって・・・そう言ってたじゃない・・・それに東京に行くから別れようだなんて筋が通ってないわよ」「こんな田舎じゃオレなんて雇ってくれねえんだよ!」アツシは声を荒げて言った。周りの客は目でこそ見なかったが、体全体でピン子とアツシの方に興味の目を向けたような空気が感じられた。それから自嘲気味ににやけてアツシは言った。「だから・・・さ。上京しようと思って。まあどうせこんな田舎町で田んぼに囲まれて一生送るなんて考えてなかったからちょうどいいんだけどな」「なによ・・・なによそれ!あんたは私をずっと捨てるつもりで付き合ってたの」「なんだよ。結婚でもする気だったのかよ」「そんな問題じゃないわよ!・・・・・・バカっ!好きにしなさいよ!」ピン子は喫茶店を飛び出した。
ガラス越しに窓を見やると中の客の一人と目が合った。アツシは背中を向けて携帯をいじっていた。もう他に女がいるのかもしれない。別れられたと報告を入れているのかもしれない。ピン子は足早にそこを立ち去った。そして商店街のショールームに写る自分の姿を見た。ふふ、ひどい顔してるな私・・・この髪もアツシがほめてくれてたから・・・黒いままで・・・・・・。その帰り、彼女は行き着けの美容院に寄った。お馴染みのおばちゃんがでてきた。「ピンクに染めてください」「えっ?ピンク?どうしたのピン子ちゃん、こんなにキレイな髪してるのに」「なんでもないんですけど・・・染めたくなっちゃって」「・・・そう。わかったわ。バカみたいなどきつい色にしてあげる」「ふふふ・・・・・・ううっ・・・」おばちゃんはそれ以降は何もいわず、黙ってピン子の髪をピンク色に染めていったのだった。美容院を出るとセミがやかましく鳴いていた。前の道路をトラックが横切る。私が振られたからといってこの世界は何も変わらない。でも私は一つ変わった。それでいい。ただそれだけのことだ。特に深い意味など今の私には必要ないのだ。ピン子は息を大きく吸い込んで大きく吐き出した。セミはまだやかましくみーんみーんと鳴いていた・・・・・・ピ、ピン子、おれはお前に何を、何をしてやれるんだ。おれは何もできない。そんな力はおれには無い。でも、でももし何かして欲しいことがあったら言ってくれ。どんな小さなことでも、つまらないことでも構わない。おれは全力でそれをやってみせる。お前がそれで少しでも笑顔を取り戻すことができるというのなら・・・

駅に着いた。辺りはもう真っ暗。送っていこうか?ん?なんだこんなところにベンツ?え?あ、乗っていかれるんですか。送って行かなくてもいいんですか。運転席には金髪の怖そうな兄ちゃん。助手席にすべりこむピン子。!?あっ!ピン子が笑った!・・・あの一時は自殺まで考えていたピン子が笑った・・・おれが何をしても笑ってくれなかったあのピン子が・・・畜生!お前は何なんだこの野郎。そこで待ってろ!ただじゃおかねえ!

でもピン子は笑うとブサイクだったので僕はただじゃおかずに105円払ってコンビニでコーヒー牛乳を買って帰ったのでした。

多事他事

 現在、私達の国で大きな議論の的となっているのが、少子高齢化問題です。厚生労働省の公表する高齢化社会白書の2006年度版では、日本で65歳以上の高齢者人口は約2560万人、総人口に占める比率は20.04%で、過去最高となっています。また、その内で独り暮らしを営む老人の割合は、男性が9.1%、女性が19.7%と非常に高く、高齢化社会について考える際、これからも増え続けていく老人達を如何に介護していくか、という問題はやはり避けて通る事は出来ません。
 しかし、介護と一口に言っても、実際にそれを行う側にとっては大きな負担である事は間違いなく、その為にストレスを溜め込んだ家族による被介護者への虐待や、あるいは独居老人の孤独死といった不幸な事態が多発しているのが現状です。2000年から設けられた介護保険法が今年の春から改正され、より介護予防を重視した制度へと転換したのは、こうした時勢を受けての事だと思われます。施設や人員の絶対的な不足、費用面での敷居の高さなど、我が国の老人介護問題にはまだ改善されるべき面が多々ありますが、これまではその家族に押し付ける形となっていた老人介護について、プロの手による介護サービスの必要性に理解の眼を向けさせた事だけでも、今回の法改正には大きな意義があったと言えるでしょう。

 ただ、介護を受けるお年寄りにとっては、こうした介護施設や老人ホームには、どうも「姥捨て山」的なイメージが未だ拭えきれていないのもまた事実です。そうした中には、家族から施設への入居を勧められた際、もしや自分が家族に見捨てられるのではないか、といった恐怖感を覚える方も少なくありません。ご家族の方々は、被介護者の気持ちを最大限に慮って、不安や心配を取り除き、なるべくリラックスさせてあげる事が重要となります。

義父「友子さん、わしゃやっぱり、老人ホームに入れられる事になるんかのう…」
嫁「そんな訳ないでしょ、おじいちゃん。今日は前々から来たがってたディズニーランドに行くんだから。ほら、着いたわよ」
義父「…何か、えらい人里離れた山奥にあるんじゃのう」
嫁「そりゃ、夢の国ですからね。自然がいっぱいの所にあるんです。ほら、あれがミッキーマウスですよ」
義父「随分、歳を食っとるのう…」
嫁「そりゃ、生誕75周年をこの前迎えたばかりですからねえ」
義父「何か、明らかに人間の爺さんに見えるんじゃが…」
嫁「流石に、アメリカのネズミは変わってるわねえ!」
義父「…友子さん、あそこにニヤニヤ笑って、よだれ垂らしながら、うろつき回っとる爺さんがおるが…」
嫁「ま、まあ可愛い!クマのプーさんね!大好物のハチミツを探してるんだわ!食いしん坊なんだから!」
義父「それに、向こうを歩いている人は、どう見てもおしめをしとる様じゃぞ…」
嫁「おじいちゃん、あれがピーター・パンよ!やっぱり、ネバーランドに住むと、子供に還っちゃうのねえ!」
所員「どうもいらっしゃい。あ、こちらが入居者の方ですね」
義父「友子さん、何か入居とか言っとるが…わしはここに住むのか?」
嫁「い、いやねえ、おじいちゃん。ホテルよホテル!ディズニーランドの中には、立派なホテルが沢山あるのよ。じゃあ、インストラクターさん、早速ですけど中を案内して下さる?」
所員「はい。えーっと、こちらが大食堂で…」
義父「…食堂?」
嫁「あーはいはい、レストランね。流石にディズニーランドのレストランは大きいわね!」
所員「で、こちらが大浴場で、こっちはリハビリ用のプールです」
義父「大浴場?リハビリ?」
嫁「ま、まあ!これが噂のディズニーシーね!ほんと、シーだけあって水がいっぱい!」
所員「おじいちゃんには、所内ではこちらに乗って戴きます」
義父「これは、明らかに車椅子…」
嫁「良かったわねえ、おじいちゃん!これが有名なビッグ・サンダー・マウンテンよ!」
所員「で、こちらが、お部屋です」
義父「…友子さん、何か介護ベッドみたいなのが置いてあるが…それに、あれは明らかにおまるじゃないのか?」
嫁「わーすっごーい!おじいちゃん、あれはおまるじゃなくて、ドナルド・ダックよ!」
義父「そうなのか…わしの想像してたのと、ずいぶん違うのう…で、友子さん、あれはいつ始まるんじゃ?」
嫁「なな、何?何の事?」
義父「ほら、あれじゃよ。『えれくとりかるぱれえど』とかいう奴じゃ。確か、夜中にやるんじゃろ?」
嫁「そ、そうねえ。やっぱり、ディズニーランドに来たら、あれを見ないとね!添乗員さ、パレードは何時からなの。夜の8時くらい?」
所員「いえ、ここは夜7時消灯です」

 この様に、民間の介護施設に被介護者を預けるだけでも、大変な苦労が待ち受けているのです。これが、自宅で介護をする場合となると、どれ程の困難が待ち受けているか、想像するに余りあります。以下では、最近「介護相談センター」に寄せられた、介護者達の代表的な悩みや質問事項を幾つかピックアップしてみました。皆さんが、我が国の介護問題の現状を知る一助となれば幸いです。

Q.老人が大量発生して困っています
「現在、築20年の一戸建てに家族4人で住んでいます。最近、大量のお爺ちゃんが家の中で発生し、家族一同困惑するばかりです。気が付くと、勝手に冷蔵庫の中を荒らされたり、所構わずお漏らしをされたり、勝手に仏壇を備え付けられたりで、息を吐く暇もありません。市販の「老人ホイホイ」や「老人取り線香」を買ってきて退治しても、直ぐに新たな老人が湧いて出てきます。一体、どうすれば良いのでしょうか」

A.家の中の環境を見直してみては
「老人は、とにかく初孫が大好き。薄暗く、湿気の多い場所に初孫を置きっ放しにしてはいませんか?家中を点検し、もし初孫が見付かったら、1箇所に閉じ込めて鍵を掛けておくか、必要の無いものは処分してしまいましょう。また、初孫に砒素や青酸カリなど、毒物を塗り付けておくのも効果的。老人は、初孫を巣にまで持ち帰る習性がある為、一網打尽にする事が出来ます」

Q.火葬のやり方教えて
「10年間、介護をし続けた父が、先日遂に息を引き取りました。これを機会に、自宅の庭で火葬を行ってみたいのですが、手軽で簡単に出来る方法はないでしょうか?友人は意外と簡単と言ってくれましたが、何しろ火葬については専門的な知識も経験もまるで無いので、妻も私も不安に感じています」

A.リラックスした気分で楽しい火葬を
「火葬と言うと、経験の無い方には少々敷居が高い様に感じられるかも知れません。ただ現在では、自宅で楽しく遺体を焼きたい、というご家族の方が段々と増えている為、便利な火葬セットがスーパーやホームセンターでも沢山売られています。せっかくの記念でもあるし、自前で道具を作ってみたい、というDIY精神旺盛な方には、レンガで四角く竈を組み、上に焼肉用の網を乗せればOKです。炭火を起こすのに最初は苦労するかも知れませんが、そんな時はバベーキュー用の着火剤を利用しましょう。ついでに、牛肉や野菜も焼いてしまえば、晩御飯のおかずも賄えて一石二鳥。ただ、自宅で火葬をする場合は大量の煙が発生するので、終わった後は、隣近所にお詫び方々、遺骨をお裾分けする心配りが大切です」

Q.「介護2.0」って?
「最近、ネットなどで話題の『介護2.0』とは、何なのでしょうか。本屋を覗けば、沢山のガイドブックや解説書が売られていて、幾つか拾い読みをしたのですが、専門的な用語ばかりでチンプンカンプンです。私の様な介護初心者にも理解出来る様に、教えて下さい」

A.介護の世界が、もっと自由になります
「これまでの介護方法、『介護1.0』では、介護者は介護者、被介護者は被介護者と役割がはっきりと別れ、固定化されていました。『介護2.0』では、両者の立場が状況や環境に応じて入れ替えられる為、例えば、お爺ちゃんが貴方の下着を替えてくれたり、あるいはお粥を口に運び合ったり、といったインタラクティブな介護が可能となります。また、介護の方法そのものも、よりフレキシブルにパーソナライズする事が出来るので、自分のお爺ちゃんと山田さんとこのお婆ちゃん、それに田中さんとこのお爺ちゃんをトッピング感覚で加えて、などと様々なタイプの老人を任意に組み合わせて介護したり、逆に1人の老人を隣近所の人を呼んで、皆でシェアリングする事も可能です」

 最後の質問にある通り、これから介護にはやはりコンピューター・ネットワークが必須となります。特に、最近評判となっているのが、一部上場で話題を呼んだ、独居老人専用のSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)「kodoxi(コドクシィ)」でしょう。とかく暗い気持ちに陥りがちな独居老人達が、交流を持ち寂しさを紛らわせる。まさに、高齢化社会が待ち望んでいたコミュニケーション・ツールです。最後に、私の祖父が「kodoxi」で公開している日記の抜粋を、幾つか公開させて頂きます。

○月×日
『長年連れ添つた妻がこの世を去つてから、どれだけの月日が流れただらふか。あれは確か、子供達も無事に独立し、各々の家庭を持つやふになり、騒がしかつたこの家もやつと静かになるわね、と笑ゐ合つていた矢先の事である。
 子供達が去り、そして妻までもが旅立つてしまつたこの家は、余の如き老人が一人で住むには余りにも広く、侘しゐ。幾ら耳を澄ませやうとも、寝室から、子供部屋から、台所から、昔のやふに騒々しゐ笑い声が聞こゑてくる事は、最早無ゐ。家主と共に歳を取つてきた家屋が時折立てる軋みの音と、庭先を所在無げにうろつき回る雀達の鳴き声が、微かに鼓膜を振るわせるだけだ。余は、妻を失つて初めて、真の孤独を知つたやふな気がする。そして、それは枯枝の如く痩せ衰ゑた肉体と精神には、ずつしりと堪える代物だつた。
 妻が死んだ時の記憶は、今でもはつきりと余の脳裏に染み付ゐてゐる。久し振りに夫婦揃つてボオリング場に出掛けたあの日、妻は、まるで子供のやふに燥ゐだ。
「今度は、絶対にストラヰクを取るわ」
 今でも、妻の最期の姿が、瞼を閉じる度に在り在りと甦つて来る。足を滑らせ、ピンに向かつて頭から滑つてゐつた妻。頭から血を噴出しながら、レヱンの上でのた打ち回つてゐた妻。
 しかし、余はその惨状から眼を逸らしたまゝ黙々とゲヱムを続けた。丁度其の時、タアキヰを狙ってゐたところだつたからだ。結局、惜しくもタアキヰはならず、悔しかつたのでもう一ゲヱム延長した』

○月△日
『最近、歳の所為か物忘れが酷くなつた。これを読んでゐる若ゐ方々には些か信じられなゐ事かも知れぬが、朝飯に何を食べたのか、昼になつてみると、最早すつかり忘れてゐるのである。
 焼き魚だつたか玉子焼きだつたか、幾ら考えても思ゐ出せなゐ。頭を捻りつつ昼食を食べ、また時間が過ぎて夕方頃になれば、今度は昼食の献立を失念してゐる有様だ。夕食もまた然り、己の脳髄の衰弱振りが、改めて腹立たしさを覚ゑる。
 しかし、幾ら記憶力が衰えようとも、私を残して旅立つていつた妻のあの笑顔、あの優しい声、あの凛とした所作、それらを忘れる事は決して無ゐだらう。未練がましゐと笑うなら笑ゑ。妻の…そう、私が生涯で只一人愛した女の記憶さゑあれば、私は生きてゐける。夕飯に何を食べたかなど、どうでも良ゐ事ではなゐか。
 今日、散歩の途中で突然ぶつ倒れて病院に運ばれた。医師の診断では、殆ど餓死寸前の状態だつたらしゐ。どうやら、飯に何を食べたかではなく、飯を食べる事自体を忘れてゐた様だ』

○月□日
『近所に住む大学生が、毎晩々々喧しくて仕方がなゐので頭を悩ませてゐる。何でも、学生の本分である学業も放り出して、ロツクとかゐふものに夢中になってゐるそうだ。夜毎、ヱレキギタアを掻き鳴らす音が耳を劈き、眠る事すらままならなゐ。
 それにしても、最近の若者達の余りに怠惰な暮らしぶりを見るに付け、ほとほと情けなくなつてくる。戦中戦後と、私達が懸命に流した血と汗と涙には、一体何の意味があつたのだらふ。彼らを只甘やかし思い上がらせる為の、虚しき豊かさを生み出しただけではなゐか。
 日々の騒音に余りに腹が据ゑ兼ねたので、私も対抗策を取る事にした。学生がギターを爪弾き出す時間帯に合わせ、尺八を吹ゐてみたのだ。しかし、向こうは電気仕掛け、こちらは老いぼれの肺から搾り出された二酸化炭素が原動力である。音の大きさではとても勝負にならなゐ。そこで、私もコンセントからコオドを引つ張り、尺八の先端に繋いでみた。これで、五分と五分の戦いが出来る筈だ。
 尺八を口に咥ゑた瞬間、全身に電流が流れて失神した』

オズワールド

カーニバル。

歴史あるそれではないし、奉るべき何かがあるわけでもない。しかしながら今年も祭は行われることとなった。なれば神輿に乗るのはやはり世界的ニュアンスを含む俺でしかないのだ。皆の者担げい、暴れい。ワッショイワッショイ!おお、お前も神輿に乗りたいか。よいよい、こちらに参れ。「お前ん家、天井低くない?」降りろ。

昨年はこの辺りで逃走を図った俺だが今年は違う。敵は自らの手で斬る!と意気込みガッと掴んだのはマグナムよろしくコルクペニス。これで戦うとかマジありえねぇからとテンパっている間にもおぞましい生物たちは侵攻している。勇敢なうさぎの兵士たちに守られてはいるものの、天空飛行船やサトウ犬の手から放たれるハイアロクラスタイトつぶてに多事他事な俺は地団駄を踏んで1up

ふざけている場合ではないとこちらも谷間の百合を採取してファイヤーボールで応戦するもその姿は明らかに髭面の赤帽。まさか呪いがこれほどの速度で進行するとは。何か、他に何かアイテムはないのか!「殿、こちらは久保マムシドリンクにござりまする!」怪しすぎる。いかにもといった雰囲気のそれを毒味させた家臣の意識は案の定飛んだったきりトビウオ。おい、これは一体何で出来ていた?「脳とラムネにございます」貴様、この俺様に向かって何たる無礼バー「今回もそれが言いたかっただけですよね?」なんて漫才魂のない奴。

もはやこれまでか… 俺が全てを諦めかけた時、目の前に現れたのは正体不明の少女だった。凛とした佇まいを崩さず、ちらとこちらを振り返ると少女は小さく優しく微笑み、その手に抱えた爆弾を使って虐殺を始めた。悪夢。血濡れの微笑を浮かべてクリーチャーたちを次々と惨殺していく彼女の姿をただ呆然と眺めながら、俺は静かな眠りについた。目が覚める頃には、きっと全てが終わっている。小鳥のさえずりとみんなの笑い声と、焼きたてのトーストとハムエッグとコーヒーの香りが漂う、そんなサニーモーニング…

久保マムシ

私の大便は、中性子だ。理由は分からない。2年前からそうなってしまった。中性子というと、巨大な恒星が滅んだ後に残る中性子星のそれと全く同じだ。引力が、ふざけている。スプーン一杯で何億トンというレベルだ。全てが引き込まれて、消えて、何でもなくなる。

2年前、私は静岡の焼津に住む一人の高校3年生だった。悪夢の始まりは、10月のある日だった。近所のジャスコに赴いて夕食の鍋の材料を買い終わった頃、突然激しい腹痛に襲われ、1階のトイレに駆け込んだ。用を足し、ジャスコを出ようとしたそのとき、轟音とともに、一階の食品売り場が跡形もなく全壊し、続いて二階も見事に崩落した。死者18名、重軽傷者51名を出す大惨事となった。

目撃者の証言で、事件の直前に酷烈な形相でトイレに駆け込んでいった私が疑われた。特殊な爆弾を持ち込んで爆破したものとして捜査が進められたが、証拠不十分で不起訴となった。当然だ。爆弾でもなんでもない。私の大便の引力でジャスコは崩れ落ちたのだから。

死者は全員圧死で殆ど原形をとどめていなかった。ただ、トイレに頭部を向けるようにして放射状に倒れていたことが判明している。倒壊した建物も、トイレの付近ではコンクリートが強い力で接合して岩石のようになっていたらしい。爆弾による犯行ではないことは、実は警察にも明らかだったに違いない。とにかく、私はすぐに無実の身となった。

ただ、3日後に学校へ登校したときのクラスの空気は酷く冷たく、全身が凍りつくようだった。ある者は冷ややかな無色の視線を投げ、ある者は涙を流し、ある者は絶望が全身に回って机に臥していた。足がすくむとはこういうことか、と妙に納得した。家に帰る道でも、家々が覆いかぶさるような錯覚と近所の人の軽蔑の視線に耐え切れず、私は何度も吐瀉した。
私は二週間後には外出が不可能になっていた。拒食症にもなった。あの忌まわしい大便を思い出すと、ジュースすら喉を通らなかった。自分の腹に手を当て、戦慄した。夜はひどい悪夢に苛まれた。不眠症になったが、暗い闇をじっと見ていても幻覚が見えた。俺の大便によってヒトでなくなった者が、夜な夜な襲いに来るのが見えた。
拒食症と不眠症と幻覚による焦燥で、ある日私は住んでいたマンションから飛び降りた。

しかし幸か不幸か、その時私は一命を取り留めた。
目覚めてすぐ、医者に自分の大便のことを話した。勿論あの事件のことも詳らかに述べた。その後、警察による再捜査が行われた。大便の引力によって圧縮、崩壊が進行していたかつてのジャスコは、いわゆる「 石棺 」にされて、立ち入り禁止区域に変わっていたのだが、再び掘り起こし、専門のチームが調査したところ、中にあるものは中性子の塊だと判明したらしい。私は中性子の大便を生成し続けるこの腸を治すため、すぐに東京の病院へと搬送された。何ヶ月かはいろいろな薬を服用させられたり、激痛を伴う検査が行われたりしたが、結果は同じだった。少量の粥を食べて、特別な便器で排泄を済ますと、毎回、大便は便器をことごとく破壊した。すぐさま危険物処理班のような部隊が突入してきて、便器を撤回し、私を救出する。そういう無意味な徒労を何度も繰り返した。

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それ以来ずっと、病院で点滴だけを栄養源として暮らしている。何故このような体になったのか、何故私の体は引力に耐えられているのか、全く分からないまま2年が過ぎた。今もまだ、この異常な腸は残っている。病巣が小腸にあるのか大腸にあるのかも判らない為、摘出すらされていない。あのような治療もすっかり施されなくなった。見事に諦めたのだろう。多額の費用がかかるのだから、当然といえば当然だ。現在私は「 延命治療 」を受けているに等しい。世間一般の20歳と言えば、今頃大学へ進学してキャンパスライフを楽しんでいるのだろうが、私は病室で、時々母から送られてくる本を読むばかりだ。隙あらば退屈が私を絞め殺しにくる。昨日はキェルケゴールの「 死に至る病 」を読み終えた。「 絶望は死に至る病であり、罪だ 」だと。

・・・ああ、解ってるよ。「 絶望 」なんて気色の悪い言葉だと常々思ってた。同情されたい莫迦が肌身離さず持っている魔法の言葉だろう?って。あの事件まで、私の人生は完璧だったのだ。県でも有名な進学校に通って、定期テストはコンスタントに校内トップ5を勝ち取って、スポーツ万能で、何も欠けている物など無かった。だけどどうだ。病院で、毎日残りの数十年を、何も味わえない呪われた体で潰してゆく毎日だ。未来も、この病室の壁のような身震いするほどの純白だ。これで絶望しないとすれば― まるで家畜じゃないか。

自殺しよう。冷えた脳がじわりと喋った。窓に映る変わり果てた男の顔はあまりに凄惨で、生への思いを消し去るのに十分だった。私は石のように固くなった全身を起こして点滴の針を抜くと、病院を出た。1万8000円を握り締め、まずスーパーを探す。近くにジャスコがあったが、見た途端に強烈な吐き気を感じたので3キロ先のダイエーに向かう。膝が激しく痛い。そこで刺身包丁と、バナナを1房購入し、残りの金で電車に乗りこんだ。焼津の実家へ行かなくてはいけない。

この体を産み落とした母親の前で死んでやろう。そう思った。消化の早いバナナを腹に詰め込んで、母親の前で割腹してやれば、飛び出した大便で、母も、私も、憎き隣人も消え去るだろう。私の心の中は、もう恐怖でも不安でも歓喜でも興奮でもない。「 無 」だ。ゼロではない。ただ、煮えたぎって流れるエネルギーのようなものだけを潤沢に湛えている。

電車の中で、フィリピン産のバナナを狂ったように頬張る。バナナは大きな黒斑点をいくつも抱えて、気怠げにぶら下がっていた。彼もまた、死にゆく自分の肉体に憂えているのかも知れない、と思う。理由は無いが、私は笑った。笑って、その皮を剥き、白い果肉をかじる。これが胃を通り腸を通り、肛門に整列する頃には、人類が創り得なかった兵器が完成しているのだ。そう考えてみるも、特に楽しくも無いので顔を上げた。外を見るともう夜で、幾つもネオンサインが流れていった。それもまた酷く下らない物に思えて、私はまた俯いて眠った。

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午後8時、焼津駅に着いた。町はもう私を忘れ去っていたように見えた。駅前の生ぬるい空気を勢い良く切り裂いて、私は歩き始めた。
町は昔のままだった。日が暮れて誰もいない坂道を上ると、すぐ私の家はあった。膝が痛むせいなのか、家までの距離は昔よりも妙に長く感じた。インターホンを押す。玄関が開く。鍋の匂いがして、私は眉をひそめた。母は一瞬目を剥いた後、堰を切ったように話し始めた。

「 アンタ・・・治ったの? 」
「 いや、ちょっと母さんに会いに着ただけ 」
「 病院の許可はとれたのかい? 」
「 いや 」
「 アンタ駄目じゃないか勝手なことし・・・ 」

母が言葉を継ぐ前に、すばやく包丁を抜いて、目の前にかざした。母は再び目を剥いた。放心状態と言えば良いのだろうか、母の瞳の奥にはもう再会の喜びは無く、静かな震えが見えるだけだった。私は胸の底で溢れていたエネルギーを憎悪に変え、臍下に刃を立てた。
「 こんな体に生んだ罰だよ 」
そういって、ぎりぎりと肉を切り開いた。神経が集中しているだけあって、痛みを超えて焼かれるような激しい熱を感じた。すぐに、中性子に姿を変えたバナナが勢い良く漏れ出た。住宅街がきしみ始める。近くにいた母が最初に私の腹へ引き込まれた。メキメキという音がした。私の体と密着した後、その強い力はさらに母の背骨をへし折った。

母は温かかった。はっ、とした。母は少し微笑んでいた。憎悪となっていた胸の底の何かが、ゆるりと融けるのを感じた。

私は声を上げて泣いた。赤ん坊が産声を上げるのと同じように、生きる為に泣いて、生きているが故に泣いた。涙は血よりもはるかに熱かった。
住宅街が崩れ始める中で、「 ごめん 」という声がした。言ったのは私だったのか、母だったのかは分からない。ただその言葉に私は救われるような気がして、また泣いた。

次の瞬間、目の前の家がバリッと言う音を立てて崩れた。私と母は深い闇に包まれた。
ここでは久々によく眠れそうな気がする。